スイレンとハス


スイレンとハスの系統分類

■スイレンとハスの系統分類

スイレンとハスはとてもよく似ているので、しばしば混同されます。学問的にも、スイレン科とハス科はともに、被子植物門・双子葉植物綱・スイレン目に属すると考えられていました。しかし、近年の分子系統学的研究から、スイレンとハスは全く系統が異なることが明らかになってきました。

APG植物分類体系によれば、スイレン科は、被子植物の中で主グループから早い時期に分岐した最も原始的なグループに属します。これに対してハス科は、被子植物の主グループに近いとされ、真正双子葉類のヤマモガシ目に属します。


スイレンとハスの違い

■スイレンとハスの違い

陸上生活に適応して進化した高等植物でありながら、二次的に水中生活をするようになった植物を、水生植物と呼びます。スイレンとハスはともに、多年生の水生植物です。水位が安定している池などに生息し、地下茎から長い茎を伸ばし、水面もしくは水上に葉と花を展開します。

スイレンの葉は円形から広楕円形で中央に葉柄が着き、深い切れ込みがあります。水面より高く出る葉はありません。多くの植物は気孔が葉の裏側にありますが、スイレンは気孔が葉の表側にあります。葉にハスのような撥水性はありません。スイレンは、熱帯産と温帯産に区分されます。大勢として、温帯産は水面のすぐ上に花をつけ、熱帯産は水面から突き出た茎の先端に花をつけます。また、温帯産はワサビ形の塊根を持ち、熱帯産は球根形の塊根を持ちます。

ハスの葉は円形で葉柄が中央につき、切れ込みはありません。スイレンと異なり、水面よりも高く出る葉もあります。葉に撥水性があって水玉ができます(ロータス効果)。水面から高く花柄が伸び、白またはピンク色の花を咲かせます。ハスの地下茎は肥大して蓮根になります。


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■エジプトの白スイレン(学名:Nymphaea lotus)

東アフリカや東南アジアに分布する、スイレン科スイレン属の多年生水生植物です。英語で「Egyptian White Water Lily」と呼ばれます。和名は、タイガーロータス、エジプトスイレン、ヨザキスイレン(夜咲睡蓮)などです。

地下茎から茎を伸ばし、水面に葉と花を浮かべます。花の色は白で、夜に開花し、午前中に花を閉じます。


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■エジプトの青スイレン(学名:Nymphaea caerulea)

スイレン科スイレン属の多年生水生植物です。東アフリカのナイル川沿いなどが原産地と見られていますが、すでに古代からインド亜大陸やタイなどにも分布していました。英語で「Egyptian Blue Water Lily」と呼ばれます。和名は、ブルーロータスです。

地下茎から茎を伸ばし、水面に葉を浮かべます。花柄を水面より上に伸ばし、青い花をつけます。午前中に花を開き、午後に花を閉じます。


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■古代エジプト人とスイレン(一)

古代エジプト人は、ナイルのスイレンを神聖なものとして崇めていました。

青スイレン(Nymphaea caerulea)は、朝に花を開き、夕暮れに花を閉じます。白スイレン(Nymphaea lotus)は、夜に花を開き、朝に花を閉じます。古代エジプト人にとってこの性質は、特定の神の象徴であり、死と来世を連想させる主題でした。

スイレンの図柄は、神殿の石柱などに頻繁に用いられています。写真は、テーベ(ルクソール)のカルナック神殿にトトメス三世が建設した二本の石柱です。左の石柱はパピルスによって下エジプトを表し、右の石柱はスイレンによって上エジプトを表しています。


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■古代エジプト人とスイレン(二)

古代エジプト人はスイレンを池や沼で栽培し、花から香料を抽出しました。また、葬儀の花束、神殿の捧げもの、女性の花飾りなどとして利用しました。

古代エジプト人は、スイレンの花が強さと力を与えると信じていました。最近の研究によって、青スイレンに穏やかな鎮静作用があることが示されました。おそらく古代エジプト人もこれを知っていて、儀式に使用したと考えられています。ラムセス二世の墓所からは、白スイレンと青スイレンの花の残滓が発見されました。

図は、テーベ(ルクソール)にあるアメン大司祭監督官トートの墓の墓室壁画です。宴会の場面とされ、婦人たちがスイレンの花を手にしています。


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■ハス(学名:Nelumbo nucifera)

インド亜大陸とその周辺を原産地とする、ハス科の多年生水生植物です。和名のハスは、蜂巣(ハチス)状の花托に由来すると言われます。英語名のロータス(Lotus)は、ギリシア語由来で、本来はエジプトに自生するスイレンを指した言葉とされます。

地下茎から茎を伸ばし、水面に葉を出します。水面よりも高く出る葉もあります。茎には通気のための穴が通り、葉には撥水性があります。

水面から高く花柄を伸ばし、白またはピンク色の花をつけます。早朝に花を開き、昼には花を閉じます。果実の皮は厚く、土の中で発芽能力を長期間にわたって保持できます。地下茎は肥大して蓮根になります。


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■古代インド人とハス

古代インドでは、ヒンドゥー教の神話やヴェーダやプラーナ聖典などにおいて、ハスは特徴的なシンボルとして繰り返し登場します。

図は、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館所蔵の絵画「大蛇シェーシャの上に横になるヴィシュヌとラクシュミー」です。

ヴィシュヌ派の創世神話によると、ひとつの宇宙が滅び、次の宇宙が始まるまでの間、ヴィシュヌ神は原始の海に浮かぶ大蛇シェーシャ(竜王アナンタ)の上に横になって寛いでいます。女神ラクシュミーが妻としてヴィシュヌの足もとに寄り添います。

やがて、ヴィシュヌのへそからハスの花柄が伸びて行き、咲いた花から創造神ブラフマーが生まれます。さらに、ブラフマーの額から破壊神シヴァが生まれます。神の誕生を媒介する清浄なハスという主題は、他のヒンドゥー経典や仏典にも見られます。


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